大判例

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名古屋高等裁判所 昭和57年(ネ)222号 判決 1982年9月30日

控訴人(被告)

堤健治

被控訴人(原告)

大正海上火災保険株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は次につけ加えるほか原判決事実摘示(ただし、原判決書一枚目裏五行目から同二枚目裏五行目まで。なお、同二枚目表七行目中「(有)」を削る。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

第一事実上の陳述

一  被控訴人

1  請求原因1項(原判決書一枚目裏七行目から同二枚目表二行目まで。)を次のように改める。

「1 控訴人は、昭和五六年三月二日午後五時二〇分ころ、軽四輪貨物自動車(滋賀四〇え三九六一号。以下「控訴人車両」という。)を運転し、滋賀県近江八幡市地内国道八号線道路を西進し同市御所内町二三八番地先にさしかかり、右道路を横断しようとして右折した際、右道路を控訴人車両に対向して直進して来た訴外辻邦夫の運転する有限会社丸幸梱包(以下「丸幸梱包」という。)所有の大型貨物自動車(岐一一て一三〇号。以下「辻車両」という。)の前部に控訴人車両の車体左側面を衝突させ辻車両に車両修理費金四三万四八五〇円相当の損害を与えた。」

2  同二枚目表三行目中「一旦停止」から同五行目「違反」までを

「控訴人が前示道路を右折横断し道路外に進入するに際し、右道路を走行する車両の正常な交通を妨害することのないよう交通の安全を確認して右折進行すべき注意義務がある(道路交通法二五条の二)のにこれを怠り、対向して直進して来た辻車両の直前を通過しようと」に改める。

3  控訴人の後記2(三)項の主張は争う。

二  控訴人

1  請求原因1項中、被控訴人主張の日時にその主張の場所で控訴人車両と辻車両とが衝突したことは認めるがその余の事実は否認する。

2  同2項中、控訴人の過失を否認しその余は争う。

(一) 控訴人は、控訴人車両を運転し国道八号線を京都方面に向つて進行中、事故現場付近にさしかかり自宅の方向に向い道路を横断するため右折しようとした際、反対車線を走行して来る辻車両を認め一旦停止したところ、辻車両も控訴人車を認めて停車したので進路を譲つてくれたものと判断し、横断を開始したところ、急に辻車両が発進し、その左前部下方を控訴人車両の車体左側後方寄りに接触させ、控訴人車を少し押し出すようにしてこするようにしながら約五メートル進行して停車したものである。以上のとおり、辻車両は控訴人車両よりも遅れて発進し、控訴人車両が優先して通過し得る状況にあつたのであるから、信頼の原則に照らしても控訴人に過失はなく、本件事故は辻邦夫の一方的過失に基因するものである。

(二) 仮に控訴人に過失が存したとしても、前示のとおり、辻車両は控訴人車両にこするようにして接触しエプロン部分を損傷したに止まり、その損害は軽微であつて、辻車両の鳥居部分の損壊は、同車両が推定約一〇屯ないし一五屯もの紙パルプを積載しながら積荷を歯止めするための木をも施さず、僅か八ミリメートルのワイヤーロープで積荷の前後を固定したに過ぎなかつたため、本件事故の際積荷が前方に移動しトラツクの鳥居と呼ばれる部分に接触したことによるもので、歯止め、ロープ等により完全に積荷を固定しておれば右の損害は生じなかつたもので、右鳥居部分の損害は不法な積載方法によつて生じたものであるから、本件事故との間に因果関係はない。

(三) 仮に控訴人に損害賠償義務があるとしても辻車両の運転者辻邦夫にも前方不注視の過失があるので過失相殺されるべきである。

3  同3項は争う。

第二証拠関係〔略〕

理由

一  昭和五六年三月二日午後五時二〇分ころ滋賀県近江八幡市御所内町二三八番地先国道八号線道路上で控訴人車両と辻車両とが衝突したこと(以下「本件事故」という。)は当事者間に争いがなく、当審証人川上敦子の証言により成立を認める甲第四号証、当審における証人辻邦夫、同堤総子の証言、控訴本人尋問の結果によると、右事故は控訴人が控訴人車両を運転し国道八号線を西進し、進路前方右側の道路沿いに位置する大成産業構内に進入するため前示場所で右折し国道を横断中、反対車線を直進して来た辻車両の前部に控訴人車両の車体左側面が衝突したものであることが認められ、右の認定を左右するに足る証拠はない。

二  そこで本件事故につき控訴人の過失の有無を判断する。

1  前掲甲第四号証、当審証人辻邦夫、同堤総子(ただし、後記措信しない部分を除く。)の各証言、当審における控訴本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)によると、控訴人は国道を横断し大成産業の構内に進入するため右方向指示燈を点滅し走行車線の中央寄りに一時停車中、反対車線を時速約二〇ないし三〇キロメートルに減速して走行して来る辻車両を認めたが、同車が減速したのを見て自車に進路を譲つて呉れるものと軽信し、辻車両が約一〇メートルの距離に接近して発進し横断を開始したため、直進して来た辻車両の前部を控訴人車両の車体左側面に衝突させたものであることが認められ、前掲当審における証人堤総子の証言、控訴本人尋問の結果中右の認定に反する部分は前掲各証拠に照らして措信することができないし、他に右の認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、控訴人は控訴人車両を運転し、道路外の施設に進入すべく道路を横断するため反対車線に進入するに際し、同車線を辻車両が対向し控訴人車両に接近して進行して来ており、その正常な交通を妨害するおそれがあり同車が進行を継続するときは衝突する危険が予想されたのであるから、一時発進を差し控えて同車の通過を待ち、あるいは、同車が完全に停止するのを確認したうえで横断を開始することにより事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、控訴人は辻車両が減速して走行して来るのを認め、自車に進路を避譲してくれるものと軽信し、同車が約一〇メートルの近距離に接近した際発進し横断を開始した過失に基因して本件事故が発生したものというべきである。

2  控訴人は、本件事故は辻車両が一旦停車し急に発進したため生じたものである旨主張するけれども、前示当審証人堤総子の証言、控訴本人尋問の結果中、右控訴人の主張にそう部分はたやすく措信することができないし、したがつて右の事実を前提として本件事故の発生が辻車両の運転者辻邦夫の一方的過失に基因する旨の控訴人の主張は採用することができない。

3  そうすると控訴人は本件事故により辻車両に生じた損害を賠償する責任がある。

三  そこで辻車両の損害について検討する。

1  当審証人川上敦子の証言により成立を認める甲第三、第六号証によると、辻車両は丸幸梱包の所有であるところ、本件事故によりフロントバンパー、フエンダー、ボデー鳥居等に損傷を受け、その修理のため部分価格金一六万九三五〇円、工賃二六万五五〇〇円以上合計金四三万四八五〇円の費用を要することが認められる。

2  控訴人は辻車両の損傷の大部分は不法な積荷の積載方法によるものである旨主張し、前掲当審証人辻邦夫の証言、当審における控訴本人尋問の結果によると、当時辻車両は荷台の前方に約一メートル程の空間を置いて積荷の紙パルプを積載し、その前後をワイヤーロープで止めていたが、急停車と衝突による衝撃で積荷が荷台の前方に移動し、鳥居の部分を強圧したため当該部分に損傷を生じたものであることが認められるけれども、荷台の前方に空間を設けて積荷を積載したこと、あるいは、急停車と衝突の衝撃で積荷が前方に移動したことをもつて積載方法に法令違反が存したということはできないし、右の損害の発生は衝突事故にともなう損害として通常予想し得るところであるから右鳥居部分の損傷と本件事故との間に相当因果関係を欠くということもできない。

3  そうすると、丸幸梱包は本件事故により金四三万四八五〇円相当の損害を被つたものというべきところ、控訴人は本件事故の発生については辻車両運転者辻邦夫にも前方不注視の過失があつたから損害額の算定にあたり過失相殺として斟酌すべきである旨主張するが本件に顕われた全証拠によつても辻邦夫に右主張の過失が存したものとは認められない。

四  以上の次第で丸幸梱包は本件事故により金四三万四八五〇円の損害を受けたものであるところ、前掲甲第三、第六号証によると、被控訴人は保険者として昭和五六年一月一六日丸幸梱包との間に辻車両を保険契約の目的として同会社を被保険者とし保険金額を金四〇〇万円とする自動車損害保険契約を締結していたが、本件事故の発生により右保険契約に基づく保険給付として、同年五月二一日丸幸梱包に対し前記損害額金四三万四八五〇円から免責額金五万円を控除した金三八万四八五〇円を支払つたことが認められるから、被控訴人は控訴人に対し右金額の限度で丸幸梱包が控訴人に対して有する前示損害賠償請求権を行使し得るというべきである。

五  よつて控訴人は被控訴人に対し金三八万四八五〇円及びこれに対する保険金の支払日の翌日である昭和五六年五月二二日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

六  そうすると、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして主文のとおり判決する。

(裁判官 舘忠彦 名越昭彦 木原幹郎)

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